そもそもトランスミッションは何故必要なのでしょうか。
それはエンジンが適切なトルクを発生できる回転数が限られている原動機だからです。エンジン単体だけでは0Km/h発進から、100Km/hの高速域までカバーすることができません。そのために適切な減速・増速を行うのがトランスミッションであり、ゼロ発進をスムーズに行うためのクラッチやトルクコンバーターなどのスターティングデバイスがあります。
エンジンにトルクを出させてクルマを前進させる、エンジンにしっかりと仕事をさせる為の黒子、それがトランスミッションの本質です。
CVTは2つのプーリーにベルトを巻き付けてある、という構造です。無断階変速機として日本語訳されることが多いですが、より機構・動作に近い訳は「超多段連続可変変速機」かなーと思っています。制御上段階がないわけではないのですが、細かく連続で変速するので無断階に見える、というところが本当のところでしょう。
CVTの利点として
- エンジンの効率のいいところを使い続けることができる。
というのがよく挙げられます。制御上はもちろんできますが、エンジン回転数の変化と車速の変化がマッチしなくなってしまうので、運転しづらく感じます。感じなかったとしても、アクセルをオン・オフのスイッチのように操作するので実燃費も悪くなりますし、クルマの挙動としてもギクシャクするでしょう。同乗するお子さんが車酔いしてしまうこともあるかもしれません。
「それはそのドライバーの運転が下手だからだ!」という意見もあろうと思いますが、たくさんの様々な人が運転するのが自動車です。むしろ運転が下手な人の方が多いでしょう。そんな人でも「運転が上手くなった!」と思えるクルマを作ることがメーカーに求められることじゃないでしょうか。一部のスーパーカーやスポーツカーは除いたとしても。
もちろん変速を抑えて運転しやすく仕上げたクルマもあります。私の運転したことのあるクルマで言うと初代フィットやフィットシャトルのハイブリッドなんかがそうですね。エンジンのおいしい回転域が広い or モーターでのアシストがあるのでそういう制御が可能なんです。
逆に言うとCVTの変速が多いクルマは、エンジンのおいしい回転域が狭く、それをカバーするために変速過多な制御になっているのだと思います。
先程も申し上げましたが、トランスミッションは「エンジンにしっかりと仕事をさせる黒子」。エンジンがよくないとそのカバーをさせられがちです。エンジン・トランスミッションという「パワートレイン」全体でどのようなトルクを発生させ、伝えるかという思想が大事になります。ただ、いかようにも制御可能な外販のCVTを買ってきて、自社開発のエンジンと組み合わせて協調制御を行うというのは、難易度高いでしょうね。
今、日本メーカーでCVTがよく使われるのは
- 既に投資してしまっているので回収が終わるまで使い続けざるを得ない
という経営上の理由が大きいのでしょう。それを現場のエンジニアの方々があの手この手でコツコツ改善されているのが今のモード燃費であると。モード燃費用制御から外れた領域になると実燃費が悪化するという、本質的ではないところにエネルギーを注ぎがちなザッツジャパンな感じがします。
最近についていえば、日本以外でCVTの採用が進んでいるという話は聞いたことがありません。新型アウディA4はついにチェーン型のCVTを止めました。同じシェフラー製チェーンを使っているスバルのリニアトロニックはどうするのかな、と興味津々で見ています。
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